おやすみ麦

2013年9月2日、近所の薬局の前に子猫がいた。薬局の店長さんが、飼ってくれる人はいないかと知り合いに手当たり次第に電話して、最終的にうちの猫になった。
体重500gくらいしかないずいぶんやせ細った子猫だった。
近所では見ない猫種だったし、野良にしては人懐っこくて虫もいなかったので、飼い猫なのではないかと思ったのだけど、飼い主は見つからなかった。
獣医さんと相談して、誕生日は7月1日になった。
薄茶色の毛で、背中の真ん中だけ一筋色が濃いものだから、それが麦粒みたいに見えてしまって、名前は麦になった。

麦はよく食べる子だった。
とにかくなんでもよく食べた。よほどご飯に恵まれなかったのだろう。
先に飼っていた杏のご飯まで食べてしまうものだから、最初のうちは麦を隔離して杏にご飯をあげていた。
テーブルの上のものも、生ごみも何でも食べるものだから、食事のときはいつも大騒ぎだった。

麦は小さい子だった。
推定一歳、大人の仲間入りをしても、体重は3000gちょうどくらい。オス猫としてはかなり小さい部類だ。多分そういう種類なのだろう。
杏と並ぶと、メス猫同士か、あるいはムギの方がメスに見えるような関係だった。

麦は杏との仲はあまり良くなかった。
麦はどうも杏と遊びたかったようなのだけど、後ろから跳びかかったり、杏のいる場所に飛び乗ったりするものだから、いつも怒られていた。
そんなこんなで顔を合わせれば喧嘩ばかり。もうちょっと仲良くしなさいと思うのだけど、どうにもならなかった。



2014年8月中頃、麦がご飯を食べなくなった。
正確には7月終わりから食欲は落ちていたのだけど、杏も目に見えて夏バテする子だったからそこまで気にしていなかった。
8月の2週目くらいから、下痢気味で、体重も落ちて、元気もなくなって、毎日のように病院通いになった。
体重も一気に減って2500gほどになり、数回発熱を起こした。

血液検査の結果、ウィルス性腹膜炎だとわかった。
かなり毛並みのいい子猫なのに捨てられてたということは、血液検査でキャリアだと事前にわかったのかもしれないと、獣医さんは言っていた。

ウィルス性腹膜炎は、治療法のない病気らしい。
栄養をとらせて、ステロイドを飲ませて、対処療法をしてひたすら延命させるしかない、そういう病気らしい。
発症しても2年以上生きる猫もいるし、1年待たずに死んでしまう猫もいるらしい。
感染経路は経口・経鼻・排便など。グルーミングするような仲の良い猫だと感染するとのことで、幸い、杏と麦はなかが悪かった。


2014年9月1日、昼間に熱を出し、落ち着いたと思ったら夜に痙攣を起こした。
夜の内に数回痙攣を繰り返し、朝には起き上がれなくなった。


2014年9月2日17時42分、拾ってきてからちょうど1年の今日、麦が他界した。
元気で、おバカで、ご飯が大好きで、体がかたくて毛づくろいの時にしょっちゅうひっくり返って、ジャンプがヘタで1mの棚にもうまく乗れない、猫らしくなかった麦は、
食べることを拒絶してゆっくり衰弱しながら、書斎の猫用ベッドに体を横たえ、時々痙攣を起こしながら、家族全員に見守られて、
最後は眠るように息を引き取った。


頑張ったね。注射もお薬も頑張ってたね。
辛かったね。何もできなくてごめんね。

大好きだよ。

ゆっくりおやすみ、麦。